『きっと、星のせいじゃない。』は感傷を排した軽やかな難病純愛映画の佳作☆シャイリーン・ウッドリーの美少女ぶりと音楽のセンスが小粋(^_-)

こんにちは。試写室情報です。『きっと、星のせいじゃない。』★★★半
最近は、純愛映画が少なくなったような気がする。若い世代を対象としたエンターテイメント・ファンタジック大作の中に、少し散りばめられている程度か。情報過多な現代社会では、若い男女のラブストーリーに新鮮な気持ちで向き合う意識が薄れているのかもしれない。

本作を観る動機としては、難病もの、ラブストーリー、主役のファンだから…、などなど、さまざま考えられるが、どれであっても構わないと思う。観客が決める裁量の自由さを残した佳作である。

卑近な例で恐縮だが、主人公と病名こそ違えど、難病を抱える身としては、どういうアプローチから病気を描くか、非常に関心を持って試写に臨んだ。本作は全米ベストセラー小説が原作である。脚本を、爽やかで小粋な佳作『500日のサマー』のコンビが手掛けたと知り、単なる難病ものではないだろう、との期待を込めたところ、それは裏切られることはなかった。

17歳のヘイゼルは、子どもの時から入退院を繰り返す末期ガン患者だ。どこへ行くにも、重たい酸素ボンベが欠かせない。学校へも行けず友だちのいないヘイゼルの住む世界は狭い。シニカルで自虐的な性格だが、
「子どもに先立たれる親のほうが辛いだろう」
と、両親に理解を寄せる優しさも持ち合わせている。

気が向かないながらも、”親のために”出向いたガン患者の集会で、ヘイゼルは18歳のガスと出会う。ガスは骨肉腫で片足を切断していた。強い印象を受け、互いに惹かれ合う2人。ガスの恋心を知りながらも、死期を予感するヘイゼルは、ガスを傷つけまいと距離を置こうとする。

ガスは、ヘイゼルに最高の贈りものを届ける。”友だちとしての関係のまま”旅立つオランダ旅行!ヘイゼルの大好きなアムステルダム在住の作家に会う約束と、旅行資金の目処までつけてくれたのだ。

頭の回転の速いヘイゼルに、ユーモアと情愛溢れるガス、個性的な親友のアイザック。残り少ない時間の中で生を全うしようとする若い3人を、本作は悲壮感を持って描かない。笑顔の場面が多いのだ。ガン患者である点を除けば、普通の10代と同じ悩みを抱え、青春を生きている、との視点が貫かれている。

敢えて共感を持ちやすい構成にしたのは、中盤から始まる”転調”、オランダロケを際立たせる伏線であったことに気づかされる。映画が輝き出し、他の青春ラブストーリー・難病映画との差異を決定的にするのも、アムステルダムの場面からと考えてよい。

初めてガスへの抑えきれない感情を素直に表現する場面、ヘイゼル役のシャイリーン・ウッドリーは、単なる美少女スターに留まらない内面性を表出させ、観客の心を打つ。本作の原作者に、長文メールを送り、アピールしたという熱意が伝わってくる名演だ。

ファミリー・ツリー』で、ジョージ・クルーニーの娘を演じた時、美少女だけれど、その外見に依存しない、内面性を多種多様に表現できる力を持った子だな、と強い印象を受けた。本作でも、繊細な目の光が、主人公の葛藤や逡巡、憂いを表現し、圧倒的な魅力を放っている。

「強い女」像を求められる昨今のハリウッド映画の傾向で、この若さにして繊細さ、陰影を滲ませるシャイリーンの演技力・個性は貴重な存在だ。アクション大作のヒロインだけが、「強い」のではない。死の恐怖を乗り越え、両親、友だちの悲しみにまで想像力を働かせることのできる少女も十分に「強い」はずだ。

今この時しかないシャイリーンの美しい表情、繊細な演技を観るだけでも、本作の価値はあるだろう。全米ではアクション大作を退けて、公開初登場1位となったのも、若い世代の共感を集めたからでは、と想像する。

ガスには、『ダイバージェント』で、シャイリーンと兄弟役を演じたアンセル・エルゴート。一部レビューで、「ガン患者にしては健康的すぎる」との評が見受けられたが、スポーツ選手が急に運動を辞めると太るものだ。

そして、この点は同じ難病患者として理解を求めたいのだが、最近の医療は、大量の医薬品を投与する傾向にある。栄養も摂取するよう指導される。身体は薬のほうから消化させようとするため、代謝機能を奪ってしまう。病気で運動ができない上に、多くの薬には副作用として”体重増加”がある。結果として患者は太ってしまうのだ。

病気=痩せる、という昔ながらの図式ではないことを理解してほしい。

映画に話を戻そう。ガスの親友、アイザック役のナット・ウルフは、映画ファンなら観た覚えのある顔にちがいない。本作でも、2人の間を繋ぐ隠れたキーパーソンとしての重役を何とも魅力的にこなしている。作詞作曲も手掛ける多才なミュージシャンだ。

作家役のウィレム・デフォーは、少ない出番ながら、さすがの存在感と貫禄を見せる。破天荒な人物造形、カリスマ性を併せ持った俳優として適役だろう。

『500日のサマー』同様、本作は音楽のセンスも良い。エド・シーラン他、エゲレスのミュージシャンを中心とした選曲は、本作を軽やかに彩っている。お涙頂戴のウェットにもならず、人生讃歌を歌い上げる佳作に、音楽は一役を買ったといっていいだろう。

印象的な台詞の多い本作。もう一度、観て台詞の持つ意味をじっくりと考えてみたいと思った。2月20日から、TOHOシネマズ系で全国公開されます。是非ご覧ください。f:id:yukieohtaki81:20150222044753j:plain